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2026/07/27
退職・解雇

弊社は定年年齢が60歳なのですが、これより下げるとなにか刑事罰等受けるのでしょうか。





 人事制度を見直す中で、定年年齢を引き上げることを検討する会社がほとんどなので、ご質問のように、引き下げを検討する会社というのは最近はほぼ聞きません。人件費の上昇や高齢化、組織の新陳代謝などを理由として定年制度の見直しを検討する企業もあるかと思いますが、定年年齢は会社が自由に決められる訳ではなく、法律によって最低限のルールが定められています。




 結論からいうと、一般の企業が定年年齢を60歳未満に引き下げることは、高年齢者等の雇用の安定等に関する法律8条により原則として認められません。違反した場合、刑事罰が科されるわけではないですが、行政上・民事上の問題が生じえます。同条項は、事業主が定年を定める場合には、その定年は60歳を下回ることができないと規定しているので、会社が定年制度を採用する場合、最低でも60歳までは雇用する制度であることが必要で、59歳や58歳を定年とする就業規則は原則としてこの法律に違反します。ただし、一定の者については、高年齢者雇用安定法の全部又は一部の規定を適用しないとされていて、例えば、船員法の適用を受ける船員については、高年齢者雇用安定法自体が適用除外とされています。また、8条にも例外があり、高年齢者が従事することが困難であると認められる業務として厚生労働省令で定める業務に従事している労働者についてはこの限りでないとされています。つまり、60歳未満の定年年齢を定めても違法ではありません。




 この例外について、弊社の業務も肉体を酷使する労働で高年齢者が従事することが困難であることは間違いないので、もしかすると弊社も60歳未満の定年年齢としても問題ないのではないかと考える経営者の方もおられるかもしれません。しかし、現行の厚生労働省令を読む限り、この例外は極めて限定されていて、鉱業法4条に規定する事業における坑内作業の業務のみとされています。鉱業法4条にいう鉱業とは、鉱物の試掘、採掘及びこれらに付随する選鉱や精錬などのことをいい、その中でも坑道内で常時作業に従事する労働者が対象となります。厚生労働省の通達でも、坑内作業に従事する者とは、常時その業務に従事する者を意味し、臨時に坑内へ立ち入る程度では例外に該当しないことが示されています。ですので、一般企業の事務職、営業職、技術職、製造職、販売職、サービス業等に従事する労働者はいうまでもなく、高年齢者が従事することは控えた方がよいのではないかとも思われるタクシードライバー、長距離トラックドライバー、とび職、外科医師などにも適用されることはありません。




 ですので、ご質問にあるように、坑内作業をさせる訳でもないのに、ただ人件費を抑えたい、若返りを図りたい、体力が必要な仕事だからといった理由だけで60歳未満の定年を設定することは認められません。同法8条違反に対して罰金等を科す規定はないので、刑事罰を受けないなら違法を承知で定年年齢を下げても問題ないのではないかと考える経営者の方もいらっしゃるかもしれませんが、法律はそんなに甘くはありません。厚生労働大臣は、高年齢者雇用安定法に違反している事業主に対し、助言、指導及び勧告を行うことができますし、勧告に従わない場合には企業名が公表される制度もあり、社会的信用や採用活動に影響を及ぼす可能性があります。




 重要なのは民事上の効果です。厚生労働省の通達では、8条に違反して60歳未満の定年を定めた場合、その定年規定は民事上無効になると解されています。例外規定に当てはまる訳でもないのに60歳未満の定年年齢を定めた場合は60歳定年と読み替えるという扱いではなく、定年の定めそのものがないものとして取り扱われるのです。ここは非常に重要なポイントで、例えば58歳定年という規定を設けても、その規定自体が無効になるため、会社は58歳で当然退職したと主張できないばかりか、定年制度そのものが存在しないものとして扱われ、会社が想定していた以上に大きな法的リスクを負うことになります。




 定年年齢に関しては、今は65歳定年が義務化されたのではないかと誤解されている方もいらっしゃいますが、正確ではありません。高年齢者雇用安定法9条は、65歳未満を定年としている企業に対し、65歳までの雇用を確保する措置を義務付けていて、具体的には、「定年を65歳へ引き上げる」「65歳までの継続雇用制度を設ける」「定年制度そのものを廃止する」のいずれかを講じれば足ります。ですので、現在でも60歳定年そのものは適法で、ただし、その後も希望者全員が65歳まで働くことができる制度を整備しなければならないということです。、現在の法制度は、60歳未満の定年は禁止しつつ、65歳まで働く機会を確保するという考え方を基本としているので、一般企業が定年年齢を60歳未満へ引き下げることは、厚労省に喧嘩を売っているようなもので、到底許されるものではありません。前述のように例外はありますが、例外として認められるのは極めて特殊な業務だけであり、多くの企業には関係のない制度です。




 定年制度は、企業経営だけでなく従業員の人生設計にも大きな影響を及ぼす重要な制度です。定年制は、労働者の労働能力や適格性が存在しているにもかかわらず、一定年齢到達のみを理由にして労働関係を終了させるもので合理性がなく、また雇用保障の理念にも反し無効であるという見解もないわけではありませんが、今のところ、定年制度は定年年齢までの雇用保障や勤続年数に沿った処遇等の労働者側のメリットも存在する法的に有効な制度であるとされています。制度の見直しを検討される際は、人材の若返り、人件費削減という経営者側の視点だけで決められるものではなく、高年齢者雇用安定法や労働契約法等に違反することにならないか等、法的リスクを十分に検討した上で慎重に進めることが必要です。


令和8年7月27日

リバティ総合法律事務所 弁護士 石上秀樹

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