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2026/07/21
各種保険

令和7年度「過労死等の労災補償状況」から見る精神疾患の労災認定――認定されやすいケースと弁護士に依頼するメリット





 精神疾患による労災請求は年々増加している一方、仕事が原因でうつ病になったのだから労災と認めてもらえるはずだと考えて請求したものの、結果的に労災認定に至らないケースは少なくありません。厚生労働省が公表した令和7年度「過労死等の労災補償状況」によると、精神障害に関する労災請求は4,958件で、そのうち支給決定件数は1,082件でした。請求件数は過去最多を更新する一方、認定率は約3割程度で推移していて、決して請求すれば認められるような甘い手続ではありません。一般的に、精神疾患の労災というと、毎月100時間以上残業した結果、うつ病になったというイメージを持つ方が多いかもしれませんが、実際の認定理由はそれだけではありません。






 厚労省のデータによると、支給決定件数が心理的負荷の内容別に最も多かったのは、「上司等からの身体的・精神的攻撃等のパワーハラスメント」の222件です。これに続いて、「顧客等からの著しい迷惑行為(カスタマーハラスメント)」の127件、「セクシュアルハラスメント」の127件、「仕事内容・仕事量の大きな変化」の113件と続きます。この結果から、現在の精神疾患の労災認定では、長時間労働だけでなく、ハラスメントや仕事内容の急激な変化が極めて重要な判断要素となっていることが分かります。もちろん、長時間労働は現在でも重要な事情ではありますが、精神障害の場合、脳・心臓疾患とは異なり、残業時間のみで判断されるわけではありません。令和7年度の時間外労働時間別の統計を見ると、支給決定件数が最も多かったのは「20時間未満」の57件であり、「40時間以上60時間未満」が55件で続いています。これは、残業が少ないから労災にならないという意味ではなく、パワーハラスメントや仕事内容の急激な変化など、他の心理的負荷が強ければ、残業時間がそれほど長くなくても労災認定されることがあることを示しています。精神障害では、一つの出来事だけではなく、複数の心理的負荷を総合的に評価するという認定基準の特徴が、この統計にも表れています。



 
  統計上、比較的認定につながりやすいのは、ハラスメントが認められるケースといえるのかもしれません。例えば、人格を否定する暴言を繰り返された、みんなの前で執拗に叱責された、無視や隔離が続いたといったパワーハラスメントは、心理的負荷が強い出来事として評価される可能性があります。近年特に増えているのがカスタマーハラスメントによる被害で、顧客から暴言や土下座を強要されたり、長時間にわたり理不尽な苦情対応を強いられたりするケースも、認定基準では評価対象となっています。仕事内容や責任が急激に変化したケースも少なくありません。突然管理職へ昇進した、人員削減によって一人で複数人分の仕事を担当するようになった、経験のない部署へ異動させられたなどの事情も、強い心理的負荷として評価される可能性があります。もちろん、長時間労働も重要な要素ではありますが、それだけではなく、長時間労働に加えてハラスメントがあった、責任の重い業務が重なったなど、全体としてどの程度強い心理的負荷だったのかが問題になることが多いかもしれません。




 

 精神疾患の労災請求が難しい最大の理由は、精神的苦痛そのものが目に見えないことです。そのため、請求人は、仕事による心理的負荷を客観的な証拠で示す必要があります。具体的には、勤怠記録やタイムカード、業務日報、メール、チャット、録音データ、人事評価資料、診療録、同僚の証言などです。精神障害の労災請求では、所定の請求書を提出するだけでなく、発症までの経過や心理的負荷を時系列で整理した申立書や意見書等を提出することも珍しくありません。認定基準には心理的負荷の評価項目が細かく定められているので、どの出来事が認定基準のどこに当てはまるのかを整理して説明することが重要です。精神疾患の労災請求を弁護士に依頼するメリットは、この認定基準に沿って事実関係を整理し、証拠を適切に位置付けることができる点にあります。会社から、「そのような事実はない」「本人の性格によるものだ」などと主張されるケースも少なくありませんが、このような場合でも、弁護士に依頼して、会社の説明と客観的資料との矛盾点を整理した上で労働基準監督署へ説明してもらうこともできます。





 仮に、労災請求が不支給決定となった場合、労働者災害補償保険法に基づく審査請求や再審査請求、場合によっては行政訴訟へ進むこともあります。会社に労働契約法5条の安全配慮義務違反等が認められる場合には、労災保険給付とは別に、会社へ慰謝料などの損害賠償を請求できる可能性もあります。労災請求だけでなく、その後の法的対応まで一体的に検討できることも、弁護士へ依頼する大きなメリットといえるでしょう。精神障害の労災では、仕事上でどのような出来事があり、それがどれほど強い精神的負担となったのかを客観的証拠に基づいて説明することが重要となりますが、精神疾患を抱えながらこれらの関連資料を収集し、認定基準に沿って整理することは決して容易ではありません。早い段階で弁護士へ相談し、証拠の収集や意見書の作成、会社への対応について助言を受けることで、精神疾患の症状のさらなる悪化を防ぐことができるのであれば、金銭的な面だけではなく、症状の安定という意味においても、弁護士に依頼するメリットはあると言えるのかもしれません。


令和8年7月21日

リバティ総合法律事務所 弁護士 石上秀樹

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