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2026/07/08
その他(労務関連)

人事担当者として、問題行動のあるメンタル不調社員への対応に悩んでいます。どのような対応が適切なのでしょうか・・





「最近、怒りっぽくなった」、「会議で話がかみ合わない」、「以前は真面目だったのに遅刻や欠勤が増えた」、「被害的な発言が目立つようになった」等・・、従業員について、このような印象を持たれたことのある人事担当者や管理職の方は多いのではないでしょうか。そのような立場の方から受ける質問の一つに、その従業員に対して精神科を受診した方がいいなどと伝えてもよいのでしょうかというものがあります。「いきなりこんなことを言われたら本人を傷つけるのではないか」、「精神疾患と決めつけたと言われないか」、「ハラスメントだと受け取られたらどうしよう」・・、こうした不安から、受診を勧めることをためらう方は少なくありません。精神疾患という極めてセンシティブな問題だからこそ、対応に慎重になるのは当然です。私個人も、相談者の方が被害的なことを訴えておられるがその真実性が明らかに疑わしいような場合において、その方に対し、弁護士事務所ではなく精神科を受診された方がよいのではないですかなどとは絶対に言えませんし、これまで一度も言ったことはありません。




 一方で、明らかに心身の不調が疑われるにもかかわらず何の対応もしなかったら、症状が悪化したり、自殺や重大な事故、他の従業員とのトラブルに発展したりするケースもあります。そのような場面では、会社は、本人への健康配慮と職場全体の安全・秩序の維持という二つの責任の間で難しい判断を迫られます。企業には、労働契約法第5条に基づく安全配慮義務があり、労働者が生命や身体の安全を確保しながら働けるよう必要な配慮を行う義務を負っています。また、労働安全衛生法は、事業者に対して労働者の健康保持増進に努めることを求めていて、ストレスチェック制度や医師による面接指導制度なども整備されています。




 会社は、従業員の健康問題を本人の自己責任として放置してよいわけではなく、明らかな異変に気付いた場合には、適切な対応を検討することが法的にも期待されているといえます。適切な対応の検討が期待されているにすぎないので、会社が医学的な診断をすることまで求められているわけではありませんし、そんな権限もありません。ですので、あなたはうつ病だから精神科へ行きなさい、統合失調症ではないですか等といった断定的な発言は避けるべきで、あくまでも病名を決めるのは医師の役割であることを忘れてはいけません。会社ができるのは、「最近のご様子が心配です」、「体調面も含めて、一度専門の医師に相談してみてはいかがでしょうか」と、健康への配慮という観点から受診を勧めることです。病気だから受診してくださいという伝え方だと、本人に病名を押し付ける印象を与えかねまないので、体調や健康状態が心配なので、専門家の意見を聞いてみませんかという伝え方であれば、本人の健康を気遣う対応として受け止められる可能性が高いのではないでしょうか。
 





 この点、心身の不調が本人だけに影響している場合であれば本人を気遣うというスタンスだけで問題はないかもしれませんが、心身の不調の結果、他の従業員への暴言やハラスメント行為、職務命令への著しい違反などを引き起こしている場合においては、本人の健康を配慮するだけではなく、職場秩序を維持するという観点から、よりストレスの少ない部署への配置転換、休業命令等、場合によっては懲戒処分、普通解雇処分等、企業として対応しなければならない場面も当然出てくるでしょう。まずは、問題行動の背景に健康上の問題があるのかを確認するために本人との面談を行い、現在の体調や業務上の困りごとについて丁寧に話を聞くことが重要です。本人が同意するのであれば診断書の提出を依頼したり、産業医との面談を勧めたりすることも考えられます。もちろん、精神科の受診は本人の自由意思が原則なので、会社が強制することはできません。実際、本人が受診を拒否するケースも少なくありません。それでも、安全配慮義務違反の有無が問題となる裁判においては、会社がその従業員に対してどのような対応を取ってきたかが重要な判断材料になることもあり。会社として、本人の異変に気付き、健康を心配し、専門医への相談を勧めたという経緯自体に大きな意味があります。



 
 もちろん、本人が治療を受けても、職場での問題行動が改善しないこともあります。その場合には、企業は必要な配慮を行った上で、就業規則に基づく指導や懲戒処分を検討することになるかもしれません。ここで注意すべきは、精神疾患があることと問題行動への対応は別の問題なので、病気そのものを理由に不利益な取扱いをする際は慎重に対応すべきということです。十分な配慮を行ったにもかかわらず、重大な規律違反や業務遂行上の支障が改善されないのであれば、企業として職場秩序を維持するための措置を講じることまで否定されるわけではありません。その際には、本人との面談記録、業務上の支障、改善指導の内容、受診勧奨の経緯、産業医の意見などをできる限り記録として残しておきましょう。こうした記録は、後に労働審判や訴訟になった場合に、企業が十分な配慮を尽くしてきたことを示す唯一の資料になります。メンタル不調が疑われる社員への対応では、健康への配慮と職場秩序の維持は対立するものではなく、どちらも企業に求められる重要な責任です。受診を勧めることを必要以上に恐れるのではなく、本人の尊厳を尊重しながら健康を気遣う姿勢で対応することが、結果として安全配慮義務を果たし、健全な職場環境を維持することにも繋がるのではないでしょうか。


令和8年7月8日

リバティ総合法律事務所 弁護士 石上秀樹

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