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賞与はボーナスと呼ばれ、多くの会社においては、夏季と年末の年2回支給されることが多いかもしれません。実際の運用では、毎月支払われる基本給とは異なり、会社の業績や従業員の勤務成績などを反映して支給額が決定されることも少なくありませんが、一部の従業員だけ賞与を減額する際には、会社の裁量が無制限に認められるわけではありません。賞与の減額理由や判断過程によっては、労働契約法上の権利濫用や不合理な差別的取扱いと評価される可能性があります。
賞与は法律上、必ず支給しなければならない賃金とされているわけではありません。しかし、就業規則、賃金規程、労働契約などに賞与制度が定められている場合には、その内容は労働契約の一部となり(労働契約法7条、12条)、労働基準法11条の賃金にも該当します。ご質問のケースのように、会社が就業規則で一定の支給基準を定め、基本給を基準として支給することを原則とすると規定しているのであれば、従業員にはその基準に従って賞与が支給されるとの合理的な期待が生じ、会社としてはその期待に応じることが必要となります。ただし、規程に会社の業績や人事評価等により減額又は不支給とすることがあると明記されているのであれば、その範囲で会社には一定の裁量が認められますが、この裁量は無制限ではありません。労働契約法3条は、労働契約について信義誠実の原則を定めており、使用者は権利を濫用してはならないとされています。そのため、就業規則に広い裁量を認める規定があっても、実際の運用が合理的でなければ、その減額措置は使用者の権利濫用として無効と判断される可能性があります。
例えば、営業成績が著しく低い、重大な勤務態度不良が認められる、無断欠勤や懲戒処分の対象となる行為があった、目標管理制度に基づく評価が低かったなどの事情がある場合であれば、減額の合理性が認められ、権利濫用との評価を受ける可能性も低いかもしれません。一方で、単に上司との人間関係が悪いという理由や、評価基準が存在しないまま何となく評価が低いという理由だけで賞与を減額した場合には、合理性を欠き権利濫用だと争われる可能性があります。重要なのは、なぜ他の従業員より賞与が少ないのかを客観的な資料で説明できる状態にしておくことです。
従業員の人事評価を理由に賞与減額する場合においては、人事評価制度との整合性も重要になります。例えば、評価制度ではB評価であるにもかかわらず、賞与だけ最低評価として扱っている場合には、一貫性を欠くとの指摘を受けるおそれがあります。また、複数の評価者が存在する制度であれば、評価のばらつきを調整する仕組みが設けられているかどうかも重要です。評価基準が曖昧なまま運用している企業ほど、後日の紛争で説明が困難になります。賞与の減額を予定しているのであれば、日頃から評価項目、評価理由、面談記録、改善指導の内容などを文書として残しておくことが必要です。
また、賞与の減額が、育児休業や介護休業の取得、内部通報、ハラスメント相談などを理由として行われた場合には、各種法令が禁止する不利益取扱いに該当する可能性があります。例えば、育児・介護休業法では、育児休業等を理由とする不利益取扱いが禁止されています。また、公益通報者保護法では、公益通報を理由とする不利益な取扱いが禁止されています。さらに、労働施策総合推進法第30条の2では、パワーハラスメントに関する相談等を理由とした不利益取扱いを行わないよう措置を講じることが求められています。
本件のように賞与を支給することを原則とするのであれば、就業規則や賃金規程において、賞与の算定方法や減額事由をできる限り具体的に定めておくことが重要となります。一方で、賞与については、労働者に支給すべきといった法的規制がそもそもなく、労使の自治に委ねられていることから、年2回の賞与(基本給の3か月分等)の支給を原則とするのではなく、例えば、「会社の業績に応じて賞与を支給することがある」といった抽象的な内容の規定にすることも検討してもよいかもしれません(就業規則の不利益変更にあたるので認められる要件は厳しい)。このような賞与の具体的な支給額又は算定方法が定められていない場合であれば、支給するか否か、また、仮に支給するにしても具体的な支給額の決定について使用者の裁量が広く、使用者による支給決定がない限りは労働者に具体的な賞与請求権は認められないとされています。ただし、この場合であっても、具体的な検討をすることなく、慣例として給与の3か月分を毎年支給し続けていたりすると、そのような内容の労使慣行が存在したとして給与の支払い義務が認められてしまうリスクは残るので、賞与について抽象的な規定しか存在しないという会社であっても、支給期ごとに具体的な算定方法を検討した上で、支給額を決定することは避けられません。
令和8年7月6日
リバティ総合法律事務所 弁護士 石上秀樹