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2026/06/01
各種保険

仕事上のストレスが原因で、食べられなくなったり寝れらなくなったりしています。こんなケースでも労災と認められることはあるのでしょうか。





 仕事上のストレスが原因で食事が喉を通らなくなったり、夜になっても眠れなくなったりすることは決して珍しいことではありません。実際、精神科や心療内科を受診する人の多くが、「食欲がなくなった」「体重が急激に減った」「眠れない」「朝早く目が覚める」といった症状を訴えています。こうした症状に苦しんでいる方から、仕事が原因なのだから労災になるのではないかという相談を受けることがあります。しかし、労災認定の場面では、単に食欲不振や不眠という症状が存在するだけでは足りません。厚生労働省の精神障害の労災認定基準では、一定の精神障害を発病していることが前提とされています。




 現在の認定基準は、WHOの国際疾病分類であるICD-10を基礎にしています(令和8年6月1日現在)。精神障害の労災認定では、ICD-10第5章「精神及び行動の障害」に分類される疾病のうち、業務との関連性が認められるものが対象になります。代表的なのは、うつ病エピソード、反復性うつ病性障害、適応障害、急性ストレス反応、PTSDなどですが、それだけに限定されるわけではありません。実際には、仕事上の強いストレスによって発症する睡眠障害や摂食障害も、労災認定基準上は対象になり得ます(ただし、実際に認定される例は極めて少ないです)。




 睡眠障害についてみると、非器質性睡眠障害と診断されることがあり、この非器質性睡眠障害とは、脳疾患や身体疾患によって生じる睡眠障害ではなく、精神的ストレスや心理的要因によって生じる睡眠障害を意味します。ICD-10ではF51に分類される精神障害です。寝つきが極端に悪い、夜中に何度も目が覚める、早朝に覚醒して再び眠れないといった症状が典型です。また、摂食障害の一種として知られる神経性無食欲症、いわゆる拒食症もICD-10上の精神障害に分類されています。仕事上の強いストレスによって食事が取れなくなり、著しい体重減少に至るケースでは、労災認定の対象となる余地はあります。





 しかし、対象疾病に含まれているからうつ病エピソード等と同じ確率で労災認定される訳ではなく、厚生労働省が公表している労災補償統計や認定実務の状況を見る限り、実際に労災として認定されている精神障害の大半は、うつ病エピソード、反復性うつ病性障害、適応障害、急性ストレス反応などで占められています。拒食症や非器質性睡眠障害が単独の疾病として労災認定される事例は極めて少ないのが実情です。実際のところ、「眠れない」という症状が続いていたとしても、精神科を受診すると、診断名は非器質性睡眠障害ではなく、うつ病エピソードや適応障害と診断されることも少なくないでしょう。同様に、「食べられない」「体重が減った」という状態であっても、診断名としては拒食症ではなく、うつ病の身体症状の一部として評価されるケースがも多いかもしれません。その結果、労災統計上も、睡眠障害や摂食障害そのものより、うつ病や適応障害として処理される事案が多数となっている可能性も否定できません。




 拒食症については、性格傾向、家庭環境、自己評価の問題、既往歴など様々な要因が複雑に関与する疾病のため、業務以外の要因との区別が難しいという問題もあります。非器質性睡眠障害についても同様で、不眠は精神障害の初期症状として頻繁に出現するため、労災認定上、独立した睡眠障害として評価されるよりも、うつ病や適応障害の症状として位置付けられることが多いです。その意味では、拒食症や非器質性睡眠障害も労災認定の対象になり得るという説明は誤りではありませんが、現実の認定実務を考えると、実際に認定されるケースはかなり限定的であると理解した方が正確です。





 厚生労働省の統計では、精神障害の労災請求件数・認定件数は年々増加しており、令和6年度には認定件数が初めて1000件を超えたとされています。パワーハラスメントや長時間労働を背景とする精神障害は、社会全体として増加傾向にあります。仕事を考えるだけで眠れない、食事が取れない、体重が急激に減っているという状態が続いているのであれば、それは精神障害の重要なサインかもしれません。実際、そうした症状が進行した結果として、うつ病や適応障害などの診断に至り、労災認定が問題となるケースが数多く存在しています。仕事のストレスによって眠れない、食べられないという状態が数週間以上続いているのであれば、我慢を続けるのではなく、早めに精神科や心療内科を受診しましょう。



リバティ総合法律事務所 弁護士 石上秀樹

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