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2026/05/29
各種保険

個人経営の定食屋さんで常勤で働いているのですが、社会保険に加入してくれないのは違法ではないのですか。





 フルタイムに近い形で働いているにもかかわらず、社会保険に入れてもらえない。従業員の立場からすると、「毎日働いているのに、なぜ国民健康保険と国民年金のままなのか」、「会社が保険料を負担したくないだけではないか」と疑問に感じるかもしれません。一般的に、社会保険への加入が義務付けられる(強制適用事業所となる)か否かは、従業員が常勤かどうかだけでは決まりません。個人経営の飲食店等には、一般の会社とは異なる社会保険上のルールがあり、常勤なのに社会保険に加入させていない=違法とは言い切れない場合があります。




 では、どのような事業所が社会保険への加入義務を負うのでしょうか。健康保険法3条3項および厚生年金保険法6条には、適用事業所と呼ばれる事業所の範囲が書かれていて、この適用事業所に該当すれば、事業主は従業員を社会保険に加入させなければならないルールが定められています。このルールによると、株式会社や合同会社などの法人は、従業員数に関係なく社会保険への加入義務があり、従業員が1人でもいれば、原則として適用事業所です。一方で、個人経営の場合は扱いが異なり、①常時5人以上の従業員を使用していることという要件に加え、②法律で定められた適用業種であることが必要とされています。





                 健康保険法3条


3 この法律において「適用事業所」とは、次の各号のいずれかに該当する事業所をいう。
一 次に掲げる事業の事業所であって、常時五人以上の従業員を使用するもの
イ 物の製造、加工、選別、包装、修理又は解体の事業
ロ 土木、建築その他工作物の建設、改造、保存、修理、変更、破壊、解体又はその準備の事業
ハ 鉱物の採掘又は採取の事業
ニ 電気又は動力の発生、伝導又は供給の事業
ホ 貨物又は旅客の運送の事業
ヘ 貨物積卸しの事業
ト 焼却、清掃又はと殺の事業
チ 物の販売又は配給の事業
リ 金融又は保険の事業
ヌ 物の保管又は賃貸の事業
ル 媒介周旋の事業
ヲ 集金、案内又は広告の事業
ワ 教育、研究又は調査の事業
カ 疾病の治療、助産その他医療の事業
ヨ 通信又は報道の事業
タ 社会福祉法(昭和二十六年法律第四十五号)に定める社会福祉事業及び更生保護事業法(平成七年法律第八十六号)に定める更生保護事業
レ 弁護士、公認会計士その他政令で定める者が法令の規定に基づき行うこととされている法律又は会計に係る業務を行う事業
二 前号に掲げるもののほか、国、地方公共団体又は法人の事業所であって、常時従業員を使用するもの






                 厚生年金保険法

(適用事業所)
第六条 次の各号のいずれかに該当する事業所若しくは事務所(以下単に「事業所」という。)又は船舶を適用事業所とする。
一 次に掲げる事業の事業所又は事務所であつて、常時五人以上の従業員を使用するもの
イ 物の製造、加工、選別、包装、修理又は解体の事業
ロ 土木、建築その他工作物の建設、改造、保存、修理、変更、破壊、解体又はその準備の事業
ハ 鉱物の採掘又は採取の事業
ニ 電気又は動力の発生、伝導又は供給の事業
ホ 貨物又は旅客の運送の事業
ヘ 貨物積卸しの事業
ト 焼却、清掃又はと殺の事業
チ 物の販売又は配給の事業
リ 金融又は保険の事業
ヌ 物の保管又は賃貸の事業
ル 媒介周旋の事業
ヲ 集金、案内又は広告の事業
ワ 教育、研究又は調査の事業
カ 疾病の治療、助産その他医療の事業
ヨ 通信又は報道の事業
タ 社会福祉法(昭和二十六年法律第四十五号)に定める社会福祉事業及び更生保護事業法(平成七年法律第八十六号)に定める更生保護事業
レ 弁護士、公認会計士その他政令で定める者が法令の規定に基づき行うこととされている法律又は会計に係る業務を行う事業
二 前号に掲げるもののほか、国、地方公共団体又は法人の事業所又は事務所であつて、常時従業員を使用するもの




 上記の規定からすると、個人経営の飲食店は適用事業所とはならないため、仮に従業員が5人以上いても強制適用事業所にはなりません。ですので、ご質問にあるように、個人経営の定食屋で働いておられる場合は、たとえ常勤で週40時間近く働いていたとしても、法律上、健康保険や厚生年金への加入義務はなく、加入していないこと=違法ではありません。ここは多くの方が誤解しやすいところで、例えば、同じ飲食店でも、運営主体が株式会社であれば加入義務がありますが、店主個人が経営する定食屋であれば、従業員数が多くても強制加入の対象外となるのです。ただし、その場合であっても、その事業所の従業員等の2分の1以上の同意を得て、事業者が申請し、厚生労働大臣の認可を受けることにより任意適用事業所となることは可能です。その場合、その事業所で働く加入要件を満たす従業員全員が社会保険に加入することになります。



 

 かかるルールに対しては、業種によって社会保険に加入できたりできなかったりするのは不公平ではないのか、業種を問わず社会保険に加入できない5人に満たない小さな事業所で働く人など誰もいなくなるのではないか等、様々な声があったこともあり、令和7年の年金制度改正では、個人事業所に対する適用範囲の拡大が決定されました。具体的には、2029年10月以降は、常時5人以上の従業員を使用する個人事業所について、従来の法定17業種という制限が撤廃され、原則として全業種を適用対象とする方向が示されています。仮に実現した場合、個人経営の飲食店も5人以上の従業員を雇用すれば強制適用事業所となり、改正による大きな影響を受ける業種の一つになります。ただし、既に存在している事業所には経過措置が設けられていて、直ちに全ての個人飲食店が強制適用になるわけではありません。実際に適用されるかどうかは、事業所の設立時期や今後の制度運用を確認する必要があります。





 

 このように、社会保険への加入については、経営主体、雇用人数、業種等によって事業主の対応も変わってくることから、自分の勤務先が加入義務を負っているのか確認したい場合は、まず経営主体が法人か個人事業主か、雇用されている従業員は何人くらいいるのか、どのような業種に属するのか等を調べてみましょう。求人票、雇用契約書、給与明細、店舗のホームページなどに、経営主体が株式会社、合同会社等であるのか、従業員数、業種について記載されているかもしれません。疑問がある場合には、管轄の年金事務所へ相談することも可能です。年金事務所は、事業所が適用事業所に該当するかどうかについて相談を受け付けています。従業員にとって社会保険は将来の年金や医療保障に大きく関わる制度なので、事業主の方も、うちは小さい店だから関係がないなどと決めつけることなく、法律上どのような扱いになるのか確認してみることをおすすめします。




リバティ総合法律事務所 弁護士 石上秀樹

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