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「公立病院」とは、都道府県、市町村、一部事務組合など地方公共団体が設置する病院を指し、市民病院や県立病院などが典型的な例です。これらの病院に勤務する職員は、地方公務員法に基づく地方公務員であることが多く、労働基準法の適用にも修正があります。これに対し、済生会病院は、社会福祉法人恩賜財団済生会という社会福祉法人が運営する医療機関なので、そこで働く職員は地方公務員ではなく、民間の労働者として扱われます。そのため、労働基準法、労働契約法、労働組合法、労働安全衛生法など、一般の民間病院と同じ労働法制が適用されます。国家公務員法や地方公務員法は適用されず、給与や人事制度も公務員給与表に従う必要もありません。
ただし、済生会病院には「公的医療機関」としての性格があるため、政策医療や地域医療維持の観点から、実務上は一般の民間病院と異なる運営がなされる場面があります。これは医療法第31条に基づき、地域医療の中核を担う病院として、公的性格を持つ医療機関と位置づけられているためです。ただし、この公的医療機関という性格は、病院の医療政策上の分類にすぎないので、職員の法的身分を公務員化するものではありません。そのため、労働時間規制や残業代、解雇規制などについては、基本的に民間病院と同じルールが適用されます。
例えば、労働時間については労働基準法第32条が適用され、原則として「1日8時間・週40時間」を超えて労働させるには、いわゆる36協定(労働基準法第36条)が必要になります(特例措置対象事業所を除く)。宿日直についても、単に「当直」と呼ばれているだけでは労働時間から除外されず(労働基準監督署長の許可が必要)、実態として通常業務を行っている場合には労働時間に該当します。医療機関では長年、宿日直許可の運用が問題となっており、救急対応が頻繁に発生する実態であるにもかかわらず、形式的に「宿日直」と扱われてきたケースも少なくありません。
ハラスメント規制についても民間企業と同様なので、済生会病院に対しても、労働施策総合推進法30条の2に基づくパワーハラスメント防止措置義務が課されます。セクシュアルハラスメントについては男女雇用機会均等法11条、妊娠・出産に関する不利益取扱いについては同法9条が問題となります。医療現場では上下関係が強く、専門職間の閉鎖性もあるため、ハラスメント問題が深刻化しやすい傾向があります。また、人事異動や懲戒についても、公務員法制ではなく就業規則と労働契約法等によって判断されます。例えば懲戒処分については、労働契約法15条により、「客観的に合理的な理由」を欠き、「社会通念上相当」でない場合には無効となりますし、降格や配転についても、権利濫用法理による司法審査の対象になります。これは公務員に適用される分限処分や懲戒処分とは異なる法体系です。
一方で、済生会病院では、公的役割を担う組織として、実務上は公務員的な運営文化を持つことがあります。年功的賃金体系、全国的な人事異動、組織秩序重視の運営などはその典型です。しかし、それらは法的に公務員だからではなく、法人運営上の方針として採用されているものです。職員側が「公的病院だから残業代は出ない」「公共性があるから労働法は制限される」と誤解しているケースがありますが、法律上そのようなルールは存在しません。繰り返しになりますが、済生会病院は民間労働法制の適用を全面的に受けるため、未払残業代、安全配慮義務違反、ハラスメント対応義務などについて、一般企業と同様の法的責任を負うのが原則です。医療現場では、人手不足や患者対応の公共性から、「仕方がない」という空気で長時間労働が常態化しやすい傾向がありますが、公的な性質の強い医療機関であることは労働法適用除外の理由にはなりません。済生会病院に勤務する職員としては、公的医療機関という性質だけで判断するのではなく、自らが民間労働者としてどのような権利を持っているのかを理解することが重要です。
リバティ総合法律事務所 弁護士 石上秀樹