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労災事故というと、多くの人は、工場内での機械事故や建設現場での転落事故など、「会社内部で発生する事故」を思い浮かべるかもしれません。しかし、実際の労災実務では、会社や同僚ではない「第三者」の行為によって労働者が負傷するケースも数多く存在します。たとえば、営業中に交通事故の被害に遭ったケース、接客中に客から暴行を受けたケース、配送中に自転車と衝突したケースなどです。このような第三者の加害行為によって発生した労災事故は、「第三者行為災害」と呼ばれています。第三者行為災害は、通常の労災事故とは異なり、「労災保険」「加害者の損害賠償責任」「会社の安全配慮義務」が複雑に重なり合う点に特徴があります。そのため、制度を正確に理解していないと、「誰に請求できるのか」「どこまで補償されるのか」が非常に分かりにくくなります。
第三者行為災害とは、業務中または通勤中に、会社や同僚以外の第三者の行為によって、労働者が負傷、疾病、死亡することをいいますが、典型例として最も多いのは交通事故です。営業社員が取引先へ向かう途中で追突事故の被害に遭った場合や、配送ドライバーが相手車両の過失で負傷した場合などがこれにあたります。最近では、接客業や医療・介護現場におけるカスタマーハラスメントや暴力行為も問題となっており、顧客による暴行や迷惑行為が第三者行為災害として扱われるケースも増えています。
ここで重要なのは、第三者が加害者だからといって、労災ではなくなるわけではないという点です。労災保険制度は、仕事中に業務に起因して労働者が被害を受けたかを基準として運用されるため、加害者が誰かは本質的な問題ではありません。そのため、第三者による事故であっても、業務遂行性と業務起因性が認められれば、通常どおり労災保険給付の対象になります。この点は、誤解されていることが多いように感じます。労災保険と損害賠償請求は別制度なので、第三者に責任がある事故でも、被災労働者は労災保険を利用することができるのが原則です。労災保険を利用するメリットは大きく、治療費について自己負担なく療養補償給付を受けられるほか、休業した場合には休業補償給付を受けることもできます。また、障害が残れば障害補償給付、死亡事故であれば遺族補償給付の対象にもなります。
この第三者行為災害が通常の労災事故と異なるのは、第三者の加害者が存在するというところです。つまり、そもそもの事故の原因を作った第三者にも民事上の損害賠償責任が発生する可能性があり、例えば交通事故であれば、自動車運転者には民法709条の不法行為責任や、自動車損害賠償保障法3条に基づく運行供用者責任が問題になります。暴行事件であれば、加害者本人の不法行為責任が問題になります。第三者行為災害では、被害労働者は労災保険による補償を受けることもできる反面、加害者への損害賠償請求も可能であるというところが通常の労災事故とは異なります。
このような請求できる相手が複数いる場合に問題になるのが、いわゆる「二重取り」の禁止です。たとえば、治療費をすでに労災保険が支払っている場合、その同じ治療費について、さらに加害者から同額の支払いを受けることはできません。損害の填補は一度で足りると考えられているからです。制度上は、労災保険が先に被害者へ保険給付を行った場合、後から国が加害者に対してその分を請求する仕組みが用意されています。これを「求償」といいます。求償関係を明らかにするため、第三者行為災害では、労災申請時に「第三者行為災害届」の提出が必要となります。
ちなみに、第三者行為災害においても、一般の労災事故と同様、会社の責任についても問題となります。事故の直接原因が第三者にあったとしても、会社が危険を予見できたにもかかわらず、必要な対策を講じていなかったような場合には、会社の安全配慮義務違反が成立する可能性があります。もちろん、すべての第三者行為災害について会社責任が認められるわけではなく、第三者の突発的かつ予測困難な行為であり、会社として合理的な安全対策を尽くしていた場合には、安全配慮義務違反は否定されることもあります。
このように、第三者行為災害の場合、労災保険制度、民事上の損害賠償責任、安全配慮義務という複数の法制度が複雑に絡み合っていることから、被災した労働者自身、どうしたらよいのか分からず悩まれることが多いかもしれません。仕事中に被災したけれど誰に請求したらよいのか分からなくないようなことがありましたら、いつでも弊所の法律相談をご利用くださいね。事案に即した具体的なアドバイスを提供させていただきます。
リバティ総合法律事務所 弁護士 石上秀樹