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2026/04/28
ハラスメント

私の生意気な発言がきっかけで、職場でみんなから無視されるようになり体調を崩し、先日、病院で自律神経失調症と診断されました。こんな事情でも労災って認められるのでしょうか。




精神障害に関する労災認定は、労働者災害補償保険法に基づき、厚生労働省の「心理的負荷による精神障害の認定基準」(令和2年改正)によって具体的に運用されています。この認定基準において重要なのが、ICD-10(国際疾病分類第10版)に基づく診断であることです。ICD-10とは、世界保健機関が定めた国際的な疾病分類であり、日本の労災実務でも公式な基準として採用されています。すなわち、労災として認められるためには、単に体調不良があるだけでは足りず、ICD-10上の「精神障害」に該当する診断が必要となります。









ここで問題となるのが、「自律神経失調症」という診断名の扱いです。ICD-10では、「自律神経失調症」という名称自体は独立した正式診断名としては明確に位置づけられていません。これに対し、労災認定の対象となる代表的な精神障害は、例えば以下のようなICD-10コードに対応するものです。うつ病は「F32(うつ病エピソード)」、適応障害は「F43.2(適応障害)」、心的外傷後ストレス障害は「F43.1(PTSD)」と分類されます。これらはいずれも「Fコード」と呼ばれる精神および行動の障害に該当します。



自律神経の不調に関係する症状は、「F45.3(身体表現性自律神経機能不全)」として整理されることがありますが、この分類は労災認定においてはやや慎重に扱われる傾向があります。なぜなら、身体症状と心理的要因の関係が明確でない場合が多いためです。したがって実務上は、「自律神経失調症」という診断が付されていても、その実態が適応障害やうつ病に相当すると医学的に評価できるかが重要になります。場合によっては、「自律神経失調症」という診断について、ICD-10上のどの分類に該当するのか、主治医に確認することが望ましいでしょう。精神科や心療内科で診断を受け、「Fコード」の診断名が付されることが、労災認定においては大きな意味を持ちます。



本件では、職場で無視されるようになり体調を崩したという経緯があります。この「無視」という行為は、継続的であれば職場におけるパワーハラスメントに該当する可能性があり、「労働施策総合推進法第30条の2」に照らしても問題のある行為です。仮にご自身の発言がきっかけであったとしても、その後の周囲の対応が社会通念上相当な範囲を超えている場合、具体的には、上司等から無視等の人間関係からの切り離しによる精神的攻撃等を反復・継続するなどして執拗に受けた場合は、業務による強い心理的負荷があったと評価される余地があります。




労災認定実務でも、「トラブルの発端」よりも「その後の心理的負荷の強さ」が重視される傾向にあります。もっとも、無視の程度が一時的なものにとどまる場合や、業務上の指導の範囲と評価される場合には、心理的負荷の強度が弱いと判断される可能性もあります。そのため、職場での無視がどの程度であったのかを客観的に示す資料が重要です。メールやチャットの記録、業務からの排除の状況、周囲の証言などは、心理的負荷の強さを裏付ける資料となります。さらに、会社側が問題を把握しながら適切な対応を取らなかった場合には、業務起因性の判断において有利に働く可能性があります。





繰り返しになりますが、本件のようなケースでは、「自律神経失調症」という診断名だけでは直ちに労災認定の対象になるとは限りません。ただし、その実質がICD-10上の精神障害、特に適応障害やうつ病に該当すると評価される場合には、労災として認められる可能性があります。また、仮に、ご自身の発言がきっかけであったとしても、その後の職場の対応が過剰であり、強い心理的負荷が継続していたと認められる場合には、業務起因性は否定されません。したがって、今後の対応としては、ICD-10に基づく診断の整理と、職場での具体的状況の記録・証拠化が極めて重要になります。これらを適切に整えたうえで労災申請を行うことが、認定の可能性を高めること繋がるでしょう。


リバティ総合法律事務所 弁護士 石上秀樹

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