Column
コラム
  1. トップ
  2. コラム
  3. 小さな建設会社の代表をしているのですが、代表といっても名ばかりで、従業員と一緒に現場で作業をしています。私が現場で怪我をしても労災保険は使えないと聞いたのですがほんとうなのでしょうか。
2026/04/03
各種保険

小さな建設会社の代表をしているのですが、代表といっても名ばかりで、従業員と一緒に現場で作業をしています。私が現場で怪我をしても労災保険は使えないと聞いたのですがほんとうなのでしょうか。






小規模な建設会社では、代表取締役であっても日常的に現場作業に従事しているケースが多く見られます。従業員と同様に危険な作業に携わる中で、「自分が怪我をした場合も労災保険が使えるのか」という疑問を持たれるのは自然なことです。しかし結論から申し上げると、会社の代表者は原則として労災保険の対象にはなりません。労災保険は、正式には「労働者災害補償保険」といい、労働者が業務や通勤によって負傷・疾病・死亡した場合に補償を行う制度です。この制度の根本にあるのは、「労働者の保護」という考え方です。ここでいう労働者とは、会社に雇われ、賃金を受け取りながら指揮命令のもとで働く人を指します。これに対し、会社の代表取締役は、形式上も実質上も会社を運営する立場にあり、他人から指揮命令を受ける存在ではありません。そのため、制度上は保護される側ではなく、保護する側、すなわち「使用者」として位置づけられています。




労働者の定義については、労働基準法第9条に書かれていて、「労働者とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。」と定義されています。ここでいう「使用される」とは、指揮命令関係の下で働くことを意味します。代表取締役は、たとえ現場で作業に従事していたとしても、会社の意思決定を行う立場にある以上、この「使用される者」には該当しないと解されています。したがって、労災保険法に基づく保護の対象とはならないのが原則です。









そこで重要となるのが、労働者災害補償保険法第33条に基づく「特別加入制度」です。この制度は、本来は労働者ではない中小事業主や役員であっても、一定の条件のもとで労災保険に加入できる仕組みです。建設業のように現場作業を伴う業種では、代表者自身が危険作業に従事することも多いため、この制度の利用が強く想定されています。特別加入をしていない場合、代表者が現場で事故に遭っても、労災保険からの給付は一切受けられません。治療費や休業中の生活費は自己負担となり、後遺障害が残った場合にも公的な補償はありません。建設業のように事故リスクが高い業種においては、この影響は極めて重大です。



民間の傷害保険で備えている場合でも、労災保険のように長期的かつ体系的な補償がなされないことが多く、特に休業補償や障害補償の点で差が生じることがあります。そのため、民間保険のみで十分と考えるのは慎重であるべきです。現場に出る代表者であれば、特別加入制度を利用して労災保険の適用を受ける体制を整えておいたほうがよいでしょう。加入には労働保険事務組合を通じた手続と労働基準監督署長の承認が必要となりますが、手続自体は確立されており、多くの中小建設業者が利用しています。近年では元請企業が下請に対して加入を求める場面も増えており、コンプライアンスの観点からも無視できない要素となっています。





ご質問に対する回答としては、中小建設会社の代表者が現場で従業員と同様に働いていたとしても、そのことだけで労災保険の対象にはならないということになります。制度上、代表者は労働者ではなく使用者として扱われるためです。もっとも、労働者災害補償保険法第33条の特別加入制度を利用すれば、代表者であっても労災保険の保護を受けることが可能です。建設業における事故リスクの高さを踏まえると、この制度を活用しないまま現場に立つことは大きな経営リスクを伴います。一度、自社の労災加入状況を見直し、必要に応じて専門家や労働保険事務組合へご相談ください。弊所への相談であれば、30分あたり5,000円(税抜)で対応させていただきます。

問い合わせ 矢印