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日本の労災保険制度は、「労働者災害補償保険法」に基づく公的保険制度であり、業務上のケガや病気に対して必要な補償を行うものです。この制度の大きな特徴は、事業主の意思に関係なく適用される「強制保険」である点にあります。すなわち、労働者を一人でも使用している事業であれば、原則として当然に保険関係が成立します。それにもかかわらず、現実には中小事業者や個人事業主の中に、保険関係の成立手続を怠っているケースが存在します。このような場合、労働者側からすると「制度が使えないのではないか」という誤解が生じやすい状況にあります。
労災保険の適用については、「労働者災害補償保険法第3条」により、労働者を使用する事業には原則として適用されることが定められています。ここでいう労働者とは、形式的な契約名称ではなく、実質的に使用従属関係にある者を指します。したがって、会社から指示を受けて働き、報酬を得ているのであれば、名称が業務委託であっても労働者と判断される余地があります。
事業主の義務については、「労働保険の保険料の徴収等に関する法律」によっても規律されています。同法4条の2および15条では、事業主に対して保険関係成立届の提出や保険料の納付義務が課されています。これらの義務に違反した場合、行政は遡って保険料を徴収することができるほか、一定の場合には追徴金(同法21条)が課される仕組みとなっています。さらに、悪質な不履行については罰則の適用もあり得ます。
ここで重要なのは、事業主がこれらの義務を怠っていたとしても、労働者の保険給付請求権には影響しないという点です。「労働者災害補償保険法第7条」は、労働者が政府に対して直接保険給付を請求できることを認めています。このため、仮に会社が未加入であっても、労働者は療養補償給付や休業補償給付といった給付を受けることが可能です。
実務においても、未加入事業場であることを理由に労災申請が拒否されることはありません。労働基準監督署は、事故の状況や労働者性の有無を調査した上で、業務災害と認められれば給付を行います。そして、実際に給付が行われた場合には、政府が事業主に対して費用を求償することになります。本件のような配送業務においては、形式上は個人事業主とされていても、実態として労働者と認定されるケースも見られます。
ご相談のような状況では、会社の説明のみに依拠するのではなく、速やかに労働基準監督署に相談されることをおすすめします。労災保険の請求手続は、必ずしも会社を経由する必要はなく、労働者本人が直接行うことが原則です(会社が代行してくれる場合もある)。実際の申請にあたっては、事故が業務中に発生したことを示す事情や、会社との関係性を裏付ける資料が重視されます。たとえば、勤務指示の記録やシフト表、業務連絡の履歴などは、労働者性を基礎づける重要な資料となります。
繰り返しになりますが、労災保険は強制適用の制度であり、事業主が加入手続を怠っていたとしても、労働者が保険給付を受けられなくなるわけではありません。「加入していないから使えない」という会社の説明は法的には誤りであり、適切な手続きをとれば保険給付を受けることは可能です。労災保険を使えるのか不安に思われることがありましたら、一度、弊所の法律相談もご利用ください。30分5,000円(税抜)で対応させていただきます。