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2026/03/24
各種保険

精神障害の労災の認定の場面で聞くことのあるストレスー脆弱性理論とはどういった理論なのでしょうか。、よく分からないので教えてください。





精神障害の労災認定に関する説明の中で、「ストレス-脆弱性理論」という言葉を耳にすることがあります。しかし、この言葉は医学と法律が交差する領域の概念であり、直感的に理解しにくいものです。
精神障害は、骨折や外傷のように「原因が一つで結果が生じる」と単純に説明できるものではありません。例えば、同じ長時間労働をしていても、発症する人としない人がいます。この違いをどう説明するかが、医学的にも法的にも重要な問題です。この点について、厚生労働省の「心理的負荷による精神障害の認定基準」(令和5年9月1日改正)は、判断の基本的枠組みとしてストレス-脆弱性理論を採用しています。







ストレス-脆弱性理論とは、簡単に言えば次のような考え方です。人はそれぞれ「ストレスへの弱りやすさ(脆弱性)」を持っており、そこに一定以上の「ストレス(心理的負荷)」が加わると、精神障害が発症する。ここでいうストレスとは、主に仕事による心理的負荷を指します。例えば以下のようなものです。


  •  ・ 長時間労働

  •  ・ 上司からのパワーハラスメント

  •  ・ 重大なミスや事故対応

  •  ・ 顧客からの著しいクレーム(カスタマーハラスメント)


労災実務では、これらを「業務による心理的負荷」と呼び、認定基準にある「心理的負荷評価表」に基づいて「強・中・弱」に分類しています。


一方の脆弱性とは、「その人がどれくらいストレスで体調を崩しやすいか」という性質です。
専門用語ですが、平たく言えば「もともとの影響の受けやすさ」です。具体的には次のような事情が含まれます。

  •  ・ 過去の精神疾患(うつ病など)の既往歴

  •  ・ 性格傾向(極端な完璧主義など)

  •  ・ 私生活上の問題(家族関係、経済問題など)



労災実務では、これらは「個体側要因」や「業務以外の心理的負荷」として整理されています。この理論のポイントは、「ストレス単独」でも「脆弱性単独」でもなく、両者の組み合わせで発症が説明される点にあります。イメージとしては以下のように考えると分かりやすいでしょう。


  •  ・ 脆弱性が低い人(丈夫な人)
     
       →かなり強いストレスがなければ発症しない


  •  ・ 脆弱性が高い人(弱りやすい人)

       →比較的弱いストレスでも発症する可能性がある




つまり、「同じ出来事でも人によって結果が異なる」ことを説明する理論です。





では、この理論は労災認定にどのように関係するのでしょうか。労災として認められるためには、労働基準法施行規則別表第1の2第9号にいう業務上疾病に該当し、業務起因性(仕事が原因であること)が必要です。ここで問題となるのが、「本人の脆弱性が原因ではないのか?」という点です。

この点、認定基準は、①一定の脆弱性があること自体は、直ちに労災否定の理由にはならない、②業務による強い心理的負荷が認められれば、業務起因性を肯定し得る、つまり、「もともと弱い人は労災にならない」という考え方は採用していません。要は、「どちらの影響が大きいか」です。業務による心理的負荷が主な原因の場合とされる場合は労災と認定され、私生活や既往症の影響が主な原因とされる場合は労災と認定されない。例えば、長時間労働や強いハラスメントが認められる事案では、一定の既往歴があっても業務起因性が肯定される傾向がある一方で、業務上の負荷が弱く、私生活上の問題が大きい場合には否定されやすくなります。この判断は、発病前おおむね6か月間の出来事をもとに、総合的に行われます。





1.「個人の問題」として片付けられない

「本人が弱いから」という理由だけで労災を否定することはできません。業務上の負荷の有無と程度を客観的に検討する必要があります。


2.記録の重要性

実務では、以下のような記録が極めて重要になります。

  •  ・ 労働時間の記録(タイムカード等)

  •  ・ 業務内容やトラブルの記録

  •  ・ 指導ややり取りの履歴(メール等)

これらが、心理的負荷の強さを判断する根拠になります。


3.安全配慮義務との関係

企業は、労働契約法第5条に基づき、安全配慮義務(労働者の健康を守る義務)を負います。
ストレスが蓄積している兆候を見逃した場合、労災とは別に損害賠償責任が問われる可能性もあります。


ストレス-脆弱性理論とは、「人それぞれの弱りやすさ(脆弱性)と、外部からのストレスの組み合わせによって精神障害が発症する」という考え方です。労災認定実務では、①業務による心理的負荷の強さ、②個体側要因や私生活上の事情を総合的に比較し、業務起因性の有無を判断されます。重要なのは、「脆弱性がある=労災にならない」わけではないという点です。あくまで、業務の影響がどれだけ大きいかが核心となります。

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