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2026/03/23
各種保険

労災事故には、災害性のものと災害によらないものの2種類があると聞きましたが、労災の認定にあたりなにか違いがあるのでしょうか。





労働災害と一口にいっても、その発生態様はさまざまです。典型的には、作業中の転倒や機械事故のように一瞬で発生するものもあれば、長時間労働や心理的ストレスの蓄積によって徐々に発症する疾病もあります。実務上はこれらを「災害性のある労災」と「災害によらない労災」に区別して考えますが、この区別は労災保険給付の種類を変えるものではない一方、労災として認定されるか否かに大きな影響を及ぼします。







労災保険制度は、「労働者災害補償保険法第7条」に基づき、業務上の事由による負傷・疾病等に対して保険給付を行うものです。そして、業務災害と認められるためには、判例・実務上、①業務遂行性(労働者が事業主の支配下で業務に従事していたこと)と、②業務起因性(その業務が傷病の原因となったこと)の双方が必要とされています。このうち、問題となりやすいのが業務起因性です。そして、この業務起因性の判断において、「災害性の有無」が決定的な意味を持つことになります。




まず、災害性のある労災とは、突発的かつ外来的な事故によって生じた負傷等を指します。例えば、作業中に足場から転落した場合や、機械に巻き込まれて負傷した場合、あるいは業務中の交通事故などが典型です。このようなケースでは、「事故」という明確な出来事が存在するため、その事故と負傷との因果関係が認められれば、原則として業務起因性も肯定されやすくなります。実務上も、事故の発生状況が客観的に確認できれば、比較的スムーズに労災認定がなされる傾向にあります。


これに対し、災害によらない労災、いわゆる職業病や過労死・精神障害等は、単一の事故ではなく、長期間にわたる業務負荷の蓄積によって発症するものです。例えば、長時間労働の継続により脳・心臓疾患を発症した場合や、強い心理的負荷によりうつ病等を発症した場合がこれに該当します。


この類型では、事故という明確な起点が存在しないため、業務起因性の判断は格段に複雑になります。そのため、厚生労働省は、「脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準」や「心理的負荷による精神障害の認定基準」といった詳細な行政基準を設け、業務による負荷の程度、発症との時間的関連性、私的要因の有無などを総合的に評価する枠組みを採用しています。







労災の認定にあたり、災害性のある労災については、事故発生時の記録や現場状況の把握が最も重要となります。事故の有無と状況が明確であれば、それ自体が強い証拠となるからです。これに対し、災害によらない労災の場合には、日常的な労務管理の状況が決定的に重要となります。具体的には、労働時間の記録、業務内容、業務量、上司からの指示内容、ハラスメントの有無などが詳細に検討され、いわゆる「過労死ライン」とされる長時間労働の有無は、認定の重要な判断要素となります。非災害性の労災は判断が難しいため、労基署の不支給決定に対して不服申立てや訴訟に発展することも多く、紛争化しやすいという特徴もあります。






以上のとおり、労災における「災害性のあるもの」と「災害によらないもの」の最大の違いは、業務起因性の立証のあり方にあります。前者は事故という明確な原因が存在するため比較的認定が容易であるのに対し、後者は業務負荷の評価を中心とした精緻な判断が必要となり、認定のハードルも高くなります。企業としては、事故防止対策に加え、長時間労働の抑制やメンタルヘルス対策といった日常的な労務管理の強化が不可欠です。とりわけ、客観的な記録の整備は、労災認定のみならず企業の法的リスク管理の観点からも極めて重要です。




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