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2026/03/10
その他の労働条件

弊社には、ハローワークを介して入社した社員がいるのですが、ハローワークに掲載されていた求人内容には退職金支給とあったのに、入社してみたら支給されないと聞かされ納得できないと言われています。面接時には退職金のことはなにも触れておらず退職金は発生しないことを前提に弊社は契約したのですが、ハローワークの求人票を確認すると、退職金ありとの記載がありました。このような場合、退職金を支払う必要があるのでしょうか。





採用実務では、ハローワークの求人票の内容と実際の雇用条件が一致していないことが後から判明し、トラブルになるケースがあります。とりわけ「退職金あり」と記載されていたにもかかわらず、入社後に「退職金制度はない」と説明された場合、労働者が納得できないと主張するのは自然な流れでしょう。では、このような場合、企業は必ず退職金を支払わなければならないのでしょうか。
結論から言うと、必ずしも退職金の支払い義務が発生するとは限りませんが、求人票の内容によっては会社側に不利な判断がなされる可能性があるため注意が必要です









採用に関するトラブルの多くは、求人情報と実際の労働条件の食い違いから生じます。この問題に対応するため、現在の労働法制度では、企業に対して労働条件の明示義務が課されています。代表的な規定は次のとおりです。

  •  ・ 労働基準法第15条第1項

       使用者は、労働契約の締結に際し、賃金・労働時間その他の労働条件を明示しなけ    
  •    ればならない。



また、求人段階についても次の規定があります。


  •  ・ 職業安定法第5条の3第1項

       求人者は、求人の申込みに当たり、労働条件等を明示しなければならない。



さらに、


  •  ・ 職業安定法第5条の3第2項

       求人内容について、虚偽または誤解を生じさせる表示をしてはならない。



つまり、企業は求人票の段階でも正確な労働条件を提示する義務があります。








まず前提として理解しておくべき点があります。それは、退職金制度自体は法律上必須の制度ではないということです。日本の法律では、

  •  ・ 退職金制度の導入

  •  ・ 支給対象

  •  ・ 支給条件




などは、基本的に企業の任意制度です。実務上は次のような形で定められます。

  •  ・ 就業規則

  •  ・ 退職金規程

  •  ・ 労働契約


つまり、これらの規程に基づいて初めて退職金の権利が発生します。したがって、会社に退職金制度自体が存在しない場合は、原則として退職金の支払い義務はありません。








とはいえ、今回の問題ではハローワークの求人票に「退職金あり」と明記されていた点が重要になります。求人票は法的には「労働契約そのもの」ではありませんが、裁判例や実務では次のように考えられています。求人票は、労働契約の内容を判断する際の重要な資料となる、つまり、

  •  ・ 求人票

  •  ・ 面接時の説明

  •  ・ 労働条件通知書

  •  ・ 就業規則




などを総合して、労働契約の内容が判断されます。








労働条件が当初提示された内容と異なる場合、労働者には次の権利があります。





法律上は、条件が違う場合は労働者は退職できるという規定はありますが、会社が必ず当初条件を実現しなければならないという規定ではありません。もっとも、実務では以下の点が争点になります。


  1.  1. 求人票の内容が具体的だったか

  2.  2. 面接時に訂正説明があったか

  3.  3. 労働条件通知書に何と書かれているか

  4.  4. 就業規則に退職金制度があるか





裁判例では、求人情報が契約内容として認められる場合もあります。例えば、求人票・広告の内容が具体的であり、労働者がそれを前提に入社したと認められる場合には、契約条件として拘束力を持つ可能性があります。一方で、次の事情がある場合には会社側が有利になる傾向があります。


  •  ・ 労働条件通知書に退職金なしと明記

  •  ・ 面接時に説明済み

  •  ・ 就業規則に制度が存在しない




つまり、正式な労働条件通知書の内容が重視される傾向があります。








ご相談の事例では、次の事情が考えられます。状況を整理すると


  •  ・ ハローワーク求人票
       → 退職金あり


  •  ・ 面接時
       → 退職金の説明なし


  •  ・ 実際の制度
       → 退職金制度なし



この場合、特に重要なのは労働条件通知書(または雇用契約書)の内容です。ここに、退職金なし、退職金制度なし等と記載されていれば、会社の主張が認められる可能性が高いでしょう。逆に、退職金に関する記載がない、求人票しか情報がないという場合には、労働者側が「求人票を信じて入社した」と主張する余地が生まれます。








今回のようなケースでは、もう一つの問題があります。それは職業安定法上の問題です。前述のとおり職業安定法第5条の3では、求人内容の正確性が求められています。もし企業が、誤った内容を掲載したり修正を怠ったりした場合には、ハローワークから指導、是正指示などを受ける可能性がありますが、通常は行政指導レベルで終わることが多いです。






このようなトラブルが発生した場合、企業としては次の対応が考えられます。


① 求人票の誤記であることを説明

まずは、退職金制度が存在しないこと、求人票が誤記だったことを丁寧に説明することが重要です。


② 労働条件通知書を確認

退職金に関する記載がどうなっているかを確認します。


③ 解決金など柔軟対応

労働者が強く不満を持つ場合には、一時金、解決金などで早期解決を図ることも実務では珍しくありません。







今回のようなトラブルは採用実務では非常に多く見られます。防止のためには以下が重要です。

① 求人票と就業規則の整合性確認

  求人票作成時に人事・総務が必ず確認する体制を作ります。

② 労働条件通知書の明確化


  退職金制度について、制度あり・制度なしを必ず明記します。

③ 面接時の説明

  求人票と異なる部分がある場合は、必ず口頭で説明しておくことが重要です。




ハローワーク求人票に「退職金あり」と記載されていた場合でも、①就業規則、労働条件通知書、③面接時の説明などを総合して労働契約の内容が判断されるため、必ずしも退職金の支払い義務が発生するとは限りません。しかし、①求人票の内容は契約内容の判断資料になる、②職業安定法上の問題になる可能性があるという点から、企業にとってリスクの高い問題でもあります。採用段階では、求人票・労働条件通知書・就業規則の内容を一致させることが最も重要なリスク管理といえるでしょう。





募集時の労働条件と契約時に合意した労働条件に齟齬がありトラブルになっている事例がありましたら、いつでも弊所の法律相談をご利用ください。30分あたり5,000円(税抜)で対応させていただきます。

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