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「始業は9時」と就業規則で定めているにもかかわらず、従業員が8時45分頃に出社しタイムカードを打刻している――。多くの企業で見られる光景です。この場合、打刻時刻から賃金を支払う必要があるのでしょうか。
労働時間の管理は、賃金支払義務だけでなく、残業代(割増賃金)の発生や長時間労働規制にも直結します。労働基準法第37条は、「使用者は・・労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。」と、時間外労働に対する割増賃金の支払義務を定めています。
もし「8時45分から労働時間」と評価されれば、日々15分の労働時間が増えることになります。これが積み重なれば未払残業代の問題に発展しかねません。近年は労働時間管理の厳格化が進み、厚生労働省も「客観的な方法による労働時間把握」(労働安全衛生法第66条の8の3)を義務付けています。タイムカードの記録は、その代表例です。
労働基準法自体は「労働時間」を明確に定義していませんが、三菱重工長崎造船所事件(最高裁平成12年3月9日判決)は、労働時間を、「使用者の指揮命令下に置かれている時間」と定義しました。つまり、単に会社にいる時間ではなく、「会社の指示や管理のもとで拘束されている時間」かどうかが判断基準になります。例えば、
といった場合は、始業前であっても労働時間と評価される可能性があります。
始業時間前の早出出勤後の時間が労働時間に該当するか悩まれることがあれば、いつでも弊所の法律相談をご利用ください。30分あたり5,000円(税抜)で対応させていただきます。
従業員が自主的に早く出社し、
という場合は、「使用者の指揮命令下」とはいえず、原則として労働時間には該当しません。
したがって、打刻時刻=直ちに労働時間、とはなりません。
もっとも注意すべきは、形式上は「任意」でも、実態として
といった事情がある場合です。このような場合、裁判では「黙示の指揮命令」(明示していなくても事実上の指示がある状態)と評価される可能性があります。結果として、打刻時刻から労働時間と判断され、未払賃金が発生するリスクがあります。
タイムカードは「労働時間の客観的記録」として重要です。厚生労働省の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」では、客観的記録を基本とすると明示されています。したがって、打刻記録と賃金計算が大きく乖離している場合、労基署から是正指導を受ける可能性があります。実務上は、
などが重要です。
① 就業規則の明確化
「始業時刻前の業務は禁止する」「時間外労働は事前申請制とする」などを明記します。
② 打刻ルールの整備
早出出社は可能でも、打刻は始業時刻からとする運用を徹底します。
③ 業務量の適正管理
業務量が所定の就業時間内で処理可能かを検証します。
④ 実態確認の記録化
始業前に業務を行っていないことを定期的に確認します。
という点が重要です。早出出勤の場合、就業時間後の残業とは異なり、労働時間と評価される可能性は低いとはいえ、労働時間は「形式」ではなく「実態」で判断されることを前提に、企業は、①ルール整備、②運用の徹底、③業務管理の適正化を行う必要があります。わずか15分でも、年間にすると大きな金額になります。従業員の労働時間管理は、コンプライアンス(法令遵守)と人材マネジメントの両面から、企業にとっては、極めて重要な課題といえます。