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2026/02/02
その他の労働条件

「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」(パート有期法)の8条と9条の関係をどう理解すべきか




同一労働同一賃金への対応が企業実務における重要課題となる中で、「パート有期法8条と9条の違いが分かりにくい」「結局、どこまで同じにすれば違法にならないのか」といった声を多く耳にします。8条と9条はいずれも「不合理な待遇差」を問題とする規定ですが、その内容や法的効果は大きく異なります。両条文の関係を正しく理解しないまま制度設計を行うと、説明しても許されない違法状態に陥るおそれがあります。本稿では、条文構造、立法趣旨、判例の考え方を踏まえながら、8条と9条の関係を体系的に解説します。





パート有期法(正式名称:短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律)は、正社員とパート・契約社員など非正規社員との間に存在する待遇差のうち、「合理的に説明できないもの」を是正することを目的としています。2018年の法改正により、いわゆる「同一労働同一賃金」が制度として明確化され、2020年(中小企業は2021年)から全面施行されました。

この制度の中核をなすのが、第8条と第9条です。両者はよく似た条文に見えますが、実際には「適用場面」と「規制の強さ」が異なっており、立法上も意図的に使い分けられています。



まず第8条は、「不合理な待遇差の禁止」という基本原則を定めた規定です。同条は、短時間・有期雇用労働者と通常の労働者との待遇差について、

を総合的に考慮し、「不合理と認められるもの」を禁止しています。ここで重要なのは、差を設けること自体は直ちに違法ではないという点です。業務内容や責任の重さ、転勤や配置転換の可能性などに違いがあれば、待遇差が認められる余地があります。ただし、その差が「違いに見合ったものかどうか」を個別具体的に説明できなければなりません。つまり8条は、「合理性判断」を前提とする規定であり、企業側には説明責任が課されます。

これに対して第9条は、より限定されたケースを対象とする、強い規制を定めています。同条が想定しているのは、

という、実質的に正社員と全く同じ働き方をしている短時間・有期雇用労働者です。このような場合には、賃金、賞与、手当、福利厚生その他の待遇について、「差別的取扱い」をしてはならないと明記されています。ここでいう「差別的取扱い」とは、合理性の有無を検討する余地なく、差を設けること自体が原則として禁止されることを意味します。




8条と9条の関係は、「どちらか一方を選んで使う」というものではありません。実務上は、次の順序で判断する二段構えの構造として理解する必要があります。

第9条は、いわば「完全同一労働」に対する絶対的な差別禁止規定です。ここに該当すれば、雇用形態を理由とする待遇差は原則として許されません。一方、第8条は、それ以外の広範なケースをカバーする一般規定であり、「違いがあるなら、その違いに見合った差か」という相対的判断を行います。この構造を誤り、「とりあえず合理的に説明できればよい」と考えてしまうと、本来9条違反となるケースを見落とすことになります。

最高裁が判断したいわゆる同一労働同一賃金関連事件(ハマキョウレックス事件、長澤運輸事件など)は、主として8条(改正前の労働契約法20条)の枠組みで争われました。これらの事件では、各手当や賞与、退職金について、業務内容や責任の違いとの対応関係が詳細に検討されています。重要なのは、裁判所が「雇用形態の名称」ではなく、「実際の働き方」に着目している点です。仮に契約社員であっても、職務内容や配置転換の範囲が正社員と同一であれば、9条の適用が問題となり得ます。実務上、9条該当性が正面から争われるケースはまだ多くありませんが、理論上は「一切の差が許されない」極めて厳しい規定であることを認識しておく必要があります。




企業実務で特に注意すべきなのは、「形式的な区分」と「実態」との乖離です。正社員と非正規社員を分けているつもりでも、業務内容、責任、シフト、配置転換の実態が同じであれば、9条に該当する可能性があります。その場合、どれだけ合理的な説明を用意しても通用しません。また、8条対応としても、「責任が違う」「期待が違う」といった抽象的説明では不十分です。職務記述書や人事制度を通じて、違いを客観的に示せる状態にしておくことが不可欠です。これは第14条の説明義務を果たす上でも重要なポイントとなります。





パート有期法8条と9条は、同一労働同一賃金を実現するための役割分担の異なる二つの規定です。





この二層構造を正しく理解することが、人事制度設計の出発点となります。自社の雇用区分がどこに位置づけられるのかを冷静に見極め、条文構造に即した対応を行うことが、法的リスクを回避し、持続的な人材活用につながるといえるでしょう。





自社の人事制度が、パート有期法8条及び9条に違反していないか、不安に思われたらいつでも弊所の法律相談をご利用ください。法律相談だけでしたら、30分につき5,000円(税抜)の費用で対応させていただきます。

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