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2026/01/16
賃金・労働時間

弊社では従業員に対し、事前に申請された経路分の交通費を支払っているのですが、従業員の中には、交通費を浮かせる目的で、申請した金額よりも安い費用で通勤(一部の期間を自転車を使用する等)してくる者がいます。そのような場合、申請のあった金額ではなく、実際に負担した金額しか支払わないという対応をしても法的に問題はありませんでしょうか。



通勤交通費は多くの企業で当然のように支給されていますが、「申請された経路・金額」と実際の通勤方法・実費」が異なるケースは、実務上しばしば問題になります。ご質問のように、申請時は電車通勤として高額な交通費を申告しているものの、実際には一部期間を自転車で通勤するなどして実費が下がっている場合、会社としては「申請額どおり支払うべきか」「実費のみの支給に変更できるのか」で悩まれるところです。






まず重要なのは、通勤交通費の法的性質です。労働基準法上、賃金とは「労働の対価として使用者が労働者に支払うすべてのもの」(労働基準法第11条)をいいます。この定義からすると、通勤手当は、労働の対価ではないことから、賃金には当たらないとも考えられます。


しかし、賃金の範囲については、労働者の保護の観点から広く解釈されていて、就業規則、労働契約、労働協約などによってあらかじめ支給要件が明確に定められている結果、使用者に支払い義務が認められるものについては、原則として賃金に当たると解されています。



民法の原則(484条、485条)からすると、通勤に要する費用は本来は、債務者(労働者)が負担すべきものと考えられますが、多くの企業では、立替費用の精算、福利厚生的要素を加味し、通勤手当の名目で従業員に支給していることが多いと思います。会社がどのような制度設計をしているかにより通勤手当の取扱いは変わることから、制度設計の段階で慎重に内容を検討することが重要となります。


通勤手当に関する制度設計に悩まれている事業者の方がおられたらいつでも弊社までご相談ください。貴社に適した制度を検討させていただきます。





(1)就業規則・通勤費規程の定めが最重要



結論から申し上げますと、就業規則や通勤費規程に「実際に負担した通勤費を支給する」「実際の通勤方法に変更があった場合は速やかに届け出る」といった定めがある場合には、申請額ではなく実費相当額のみを支払う運用をしても、直ちに違法とはなりません。

逆に、



と明記されている場合には、会社の一方的判断で実費精算に切り替えることは、賃金減額として問題になる可能性があります。

(2)賃金全額払い原則との関係



労働基準法第24条は「賃金全額払いの原則」を定めています。
これは、支払うと決めた賃金を、会社の都合で一部カットしてはいけないという趣旨です。

そのため、

という状況で、会社が一方的に「実費しか払わない」とするのは、賃金不払いとして是正指導やトラブルの原因になり得ます。





通勤交通費に関する裁判例では、「通勤費は会社の規程に基づき支給されるものであり、その内容は就業規則の解釈に委ねられる」という考え方が一貫しています。つまり、不正受給と評価できるかどうかが重要です。

  例えば、



このような場合には、不当利得や懲戒の対象となる余地もあります。


  一方で、

場合には、直ちに不正とは評価しにくいと思われます。


 

 



(1)現時点での対応



現行規程が「申請額支給型」である場合、個別に実費精算へ切り替えるのは慎重にすべきです。まずは、

を行い、悪質性が高い場合に限定して是正指導を行うのがよいでしょう。


(2)将来に向けた制度整備



トラブル防止のためには、以下のような規程整備が有効です。

このようにルールを明確化した上で、将来分から適用すれば、法的リスクは大きく下がります。





交通費は少額でも不満や不信感につながりやすい分野です。「何を支給するのか」をルールとして明文化し、周知することが、最大のリスクヘッジとなります。



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