ある日、従業員や元従業員から「残業代が支払われていない」との請求書や内容証明郵便が届く――。このような相談は、企業側から非常によく寄せられます。
未払い残業代の問題は、放置すれば高額な金銭負担や訴訟リスクにつながる一方、初動対応を誤ると不利な立場に追い込まれるおそれもあります。重要なのは、感情的に反論するのではなく、法的に正しい順序で冷静に対応することです。
なぜ未払い残業代の請求は増えているのか
未払い残業代請求が増えている背景には、いくつかの要因があります。
第一に、労働基準法に基づく残業代請求権の周知が進み、インターネットやSNSで情報を得た従業員が権利行使をしやすくなった点です。
第二に、いわゆる「名ばかり管理職」や固定残業代制度の誤用など、会社側が違法状態に気づかないまま運用しているケースが少なくないことが挙げられます。
さらに、労働基準法第115条、143条により、残業代請求権の時効が現在は原則3年とされており、過去にさかのぼった請求額が高額化しやすい点も見逃せません。
会社がまず確認すべき法的ポイント
未払い残業代への対応にあたり、会社が最初に行うべきことは、事実と法律関係の整理です。
(1)残業代が発生するかの確認
残業代の支払い義務は、労働基準法第37条に基づき、
- ・ 法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超える労働
- ・ 法定休日労働
- ・ 深夜労働(午後10時~午前5時)
について発生します。「管理職だから残業代は不要」「年俸制だから支払わなくてよい」といった理解は誤りであり、労働基準法上の管理監督者(同法第41条)に該当するかは、肩書ではなく実態で判断されます。
(2)証拠資料の収集
次に行うべきは、客観的資料の確保です。具体的には、
- ・ タイムカード、勤怠管理システム
- ・ PCのログイン・ログアウト記録
- ・ 業務日報、メール履歴
- ・ 雇用契約書、就業規則、賃金規程
などを整理します。裁判実務では、労働時間の立証は労働者側が基本ですが、会社が資料を適切に管理していない場合、不利な推認が働くことがあります。
初動対応で差がつくポイント
会社が最初に注意すべきなのは、不用意な発言や即時の否定をしないことです。
「うちは問題ない」「そんな残業は認めていない」と感情的に返答すると、後に不利な証拠として使われる可能性があります。実務上は、
- 1. 請求内容(期間・金額・計算方法)を正確に把握する
- 2. 社内資料を基に、未払いの有無を試算する
- 3. 専門家(弁護士・社労士)に早期に相談する
という流れが重要です。
未払いが一部でも認められる場合、早期解決(和解)を視野に入れることが、紛争の長期化や訴訟リスクを抑える有効な手段となることも少なくありません。
従業員から残業代の請求を受けたが、そもそも残業代を支払うべきなのか、支払うとしていくら支払ったらよいのか判断が難しく、悩んでおられる経営者の方がいらっしゃたら、いつでも弊所の弁護士までご相談くださいね。相談だけなら30分5000円(税別)で対応させていただきます。
「最初の一手」が会社の将来を左右します
未払い残業代の請求を受けた場合、会社がまず行うべきは、
- ・ 事実関係と法的義務を冷静に確認すること
- ・ 証拠資料を整理し、安易な対応を避けること
- ・ 早期に専門家の助言を得ること
です。残業代問題は、単なる過去の清算にとどまらず、今後の労務管理体制を見直す重要な契機にもなります。初動対応を誤らず、法令に沿った適切な対応を取ることが、企業のリスク管理として極めて重要だといえるでしょう。