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有期雇用契約は、契約期間の満了により当然に終了するのが原則です。この原則から、「まだ一度も更新していない」「更新しない理由もある」という事情があれば、雇止めをしても問題ないと考える企業は少なくありません。しかし、実務上は初回契約満了であっても、雇止めが法的に問題となる場面は存在します。以下、その理由と留意点を確認しておきましょう。
雇止めは、契約期間満了による労働契約の終了であり、形式的には解雇とは異なります。そのため、労働契約法16条(解雇権濫用法理)が直接適用されるわけではありません。しかし、雇止めであっても一定の場合には、解雇に準じた規制が及ぶ点に注意が必要です。
労働契約法19条は、雇止めについて、次のいずれかに該当する場合には、解雇と同様に厳格な有効性判断を求めています。
① 有期労働契約が反復更新され、期間の定めのない契約と実質的に異ならないと認められる
場合
② 労働者において、契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由がある場合
本件のように更新歴がない場合、①は通常問題となりませんが、②については初回契約であっても否定されるとは限らない点に注意が必要です。
合理的な更新期待が認められるかどうかは、形式ではなく実質で判断されます。例えば、
といった事情があれば、初回契約であっても、更新期待が肯定される可能性があります。
仮に労働契約法19条が適用される場合、雇止めが有効とされるには、客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が必要となります。
「同じ雇用条件の他の従業員と比較して仕事が遅い」という事情は、理由として一定の理解は得られるものの、それだけで足りるとは限りません。特に問題となるのは、
といったプロセスの有無です。これらが欠けている場合、「単なる主観的評価に基づく雇止め」と評価されるリスクが高まります。
初回契約満了による雇止めであっても、企業としては次の点を意識すべきです。
これらを事前に整理しておくことで、紛争リスクを大きく下げることができます。
「初回更新前」「更新しない理由がある」という事情のみで、雇止めが常に問題にならないとは言えません。雇止め法理の適用可能性と、理由の合理性・相当性が、後に厳しく問われる可能性があることを踏まえ、慎重な対応が求められます。企業の人事担当者としては、有期雇用契約は柔軟な人事運用を可能にする一方で、運用を誤れば解雇と同様のリスクを伴う制度であることを、改めて認識しておく必要があるといえます。