Column
コラム
  1. トップ
  2. コラム
  3. 年次有給休暇の時季指定について
2025/06/24
賃金・労働時間

年次有給休暇の時季指定について


法律では、使用者は、原則、有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならないとされ、請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合に限り、他の時季に与えることができるとされています。



つまり、有給休暇を取得する日については、労働者が決めることが原則で、使用者が決めることができるのは、法令で認められた例外的な場合に限るということになります。


労働基準法39条5項

使用者は、前各項の規定による有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない。ただし、請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる。



ここで、なぜ、時期ではなく時季という用語が使用されているか、疑問を持たれる方もおられるのではないでしょうか。



菅野和夫・山川隆一「労働法」では、以下のように説明されています。



ある程度まとまった(連続した)年休を取りたい場合は、まずは季節を指定したうえで、その後、具体的な時期について労使間で調整するという流れになりやすいのに対し、子供の学校行事に参加したい等、1日単位で年休を取りたい場合は、季節を指定することなく最初から具体的時期を指定されることが多いのではないでしょうか。年休の時季指定に関して争いになるのは、基本的には、季節指定の段階ではなく、具体的時期の指定の段階です。



前述のように、使用者は、労働者が請求した時期に年休を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合には、他の時季にこれを与えることができるとされています。この権限のことを、「使用者の時季変更権」と呼ばれます。



この「事業の正常な運営を妨げる場合」というのは、一般的には、事業の内容・規模・時季指定した労働者の担当職務の内容・性質・職場での配置、代替要員の配置の難易、作業の繫閑、指定された年休日数、労働者による事前調整の状況、他の労働者の時季指定の状況などの事情を総合考慮判断されることになります(菅野和夫・山川隆一「労働法」)。



要は、年休取得を希望する労働者の年休指定日の労働が、その者の担当業務を含む相当な単位の業務の運営にとって不可欠であり、かつ、代替要員を確保するのが困難という事情があれば、時季変更事由の存在が認めらえる可能性が高いということです。



代替要員確保の困難性について、判例では、勤務割変更の方法・実情、年休請求に対する使用者の従前の対応の仕方、当該労働者の作業の内容・性質、欠員補充人員の作業の繫閑、年休請求の時期、週休制の運用の仕方などの諸点を考慮して判断すべきであるとされていて(最三小判平成元年7月4日)、非常に微妙な判断を要求されています。



年休取得の時期については、労使ともに、判断の難しさ、費用対効果等の観点から、できれば法的な紛争にはしたくないというのが正直なところで、よほどの長期間でない限りは、労使間で可能な限り調整し、労働者の納得の得られる時期に取得させることが望ましいと考えます。ただ、年休取得を希望する労働者の希望を優先することで、他の労働者に無理をさせることにもなりかねないので、労働者間の利害の調整という視点も必要となり、年休問題は、日常的に使用者の頭を悩ませている問題の一つかもしれません。

問い合わせ 矢印